攻略本の品質管理とは〜校正、校閲というお仕事〜

紙のお仕事,業界裏話,思わずシェアしたくなる話
2017.08.29

 当社では、近年webや動画、イラスト制作など様々なお仕事をさせていただいていますが、そのなかでも設立当初から業界第一線を走り続けているのがゲームの「攻略本制作」です。
 今回はその攻略本制作のなかでも、あえて「品質管理」に焦点を当てて書かせていただこうかと思います。

攻略本の品質管理というお仕事

 当社には主に攻略本の品質を管理する専門チームがあります。書籍を制作する際は、そのプロジェクトを管理しているリーダーが音頭をとりますが、チェックの段階ではバトンタッチし、このチームが主導します。業務の内容はひたすら「ページに書かれている内容をチェックする」こと。いわゆる「校正」「校閲」などと呼ばれる作業です。
 昨年には校閲部門に配属された主人公が活躍したりする『校閲ガール』というドラマも放送されて話題になりましたから、何となく仕事の内容も想像がつくのではないでしょうか。

 業務内容は細かく言うとキリがないのですが、こと攻略本に関していうと

・誤字脱字はないか
・構成はわかりやすいか(見出しの格は適切か)
・掲載されているデータは正しいか
・写真やデザインパーツに問題がないか
・攻略情報は誰にでも実践できるものか

といったところになります。
 正直なところ、非常に、非常に……地味な仕事です。ですがゲーム攻略本には他の書籍の校正作業と決定的に違う部分があります。
それはズバリ

「ゲームで遊べる」

コレです。
 しかも、攻略本が作られるようなタイトルは、そのほとんどどが人気タイトル。人気タイトルというのは、たいていの場合、非常にゲームもおもしろいわけで、勤務時間中にそれをプレイできるというのは、ゲーム好きな人には堪えられない仕事といえるでしょう。
 ただし、あくまで仕事ですから普通にプレイできると思ったら大間違い。同じダンジョンを延々と歩き回り、ドロップアイテムが出るまでモンスターと戦い続ける、さらにはその確率を検証するなどという気が遠くなるような作業もあったりしますから、やはり並のゲーム好きでは務まりません。

「とにかくゲームが好き」
「もくもくと集中してひとつの作業ができる」
「文章を読むのが好き」

 こういった人ならまさに攻略本の品質管理にはうってつけ。弊社の品質管理チームもこういったスタッフが日々攻略本をチェックしています。

「校正」と「校閲」

 ところで「校正」と「校閲」、この二つは似てはいますが、同じ仕事ではありません。辞書で引いてみると下のとおり。

校正…印刷物と原稿とを見比べて文字などの誤りを正すこと.
校閲…文書の誤りや不備を調べて正すこと.
※出典:三省堂 web dicionaryより

 これでもまだわかりにくいのですが、簡単にいうと、校正は印刷物と元の原稿や資料を見「比べて」、誤りを正すこと。
 対して校閲は原稿を読み、書かれている内容や意味に間違いがないか「調べて」誤りを正すこと、になります。
 たとえばロールプレイングゲームなどのゲーム攻略本では、アイテムデータやモンスタデータのチェックといったものが校正作業、ボス敵の倒し方の検証などは校閲作業ということになります。

品質管理チームの発足

 今では、自社で制作する攻略本だけでなく、他社様の攻略本のチェックを任されることもある品質管理チームですが、実は当初から存在していたわけではありません。
 校正・校閲作業は制作チーム自体が行っていたのですが、品質管理チームが誕生することになったのはある事件がきっかけでした。

 PlayStation 3の発売を1年後に控えた2005年。ビデオゲームというものが社会的にも市民権を得て、次々に予算が投入され、大作が作られていたた時代です。
 この頃のゲームは年々ボリュームが増加し、システムもより複雑になっていました。いわゆる“2週目でしか手に入らないアイテム”や、プレイ内容によってラストが変化するマルチエンディング、膨大な寄り道要素、多彩なスキルやアビリティ、格闘ゲームのようなコンボシステムを導入するロールプレイングゲーム……。
 インターネットは今ほど普及していなかったので、これらのゲームを遊び尽くすには攻略本は欠かせない存在でした。どんなゲームでも攻略本は不可欠で、大量の制作依頼が舞い込みました。
 しかし、ゲームの複雑化&大容量化に合わせて攻略本のページ数や掲載する情報量も増していきます。納期は大きく変わらないので、制作スタッフは、目の前の作業すなわちゲームの攻略、原稿執筆、画面写真の撮影、デザイン等々に追われ、そういう中でプライオリティが下がっていったのがチェックの部分でした。
 その結果、ある攻略本の制作途中で多数の間違いが発覚してしまいます。すでに目の前に入稿日が迫っており、このまま進行させるわけにはいきません。そのときは〆切をぎりぎりまで延ばしていただき、当社の休暇中の社員まで総動員して再チェックと修正にあたりました。
 結果、幸い本は無事に刊行され、内容的には好評をいただけましたが、関係者には多大なご迷惑がかかってしまいました。そしてクライアント様からこんな一言をいただいてしまったのです。

「詰め込みすぎで品質が下がってますよ」

 できることとやりたいことは違うのです。当社は初めてそこで立ち止まり、あらためて攻略本の品質というものを見直しました。
 冷静に考えれば、納期がさほど変わらずにページ数、情報量が飛躍的に増えているわけですから、これまでと同じやり方、同じ体制でチェックをしていては品質が保てるはずがありません。

 こうして生まれたのが、攻略本のチェックだけを専門に扱う「品質管理チーム」でした。制作する現場の人間と切り離し、読者の自然な目線でわかりづらい部分、間違っている箇所を指摘できるチームです。
 ただ、攻略本の“チェックだけをする部署”というのは、当時では珍しい存在で、あまり一般的なノウハウもなく、チェックの方法やチームの体制は本当にゼロから作るしかありませんでした。
 普通に原稿だけをみて校正や校閲をするだけならいいのですが、ゲーム攻略本においては、自らもゲームをして確かめることが必要なため、そういった作業の標準化やルール化を行わないことには、逆に時間や人手ばかりがかかってしまいます、

 最初は間違った修正を誘導してしまったり、専門部署ができたことで編集側のセルフチェックが疎かになってしまったり……何か新しいことを始めれば、それに応じてさまざまな新たな問題が起こります。その都度どうすれば品質を保てるのか話し合い、ときには社内でぶつかりながら、試行錯誤の末に今のシステムや体制ができあがったのです。

QBISTのチェック作業

 ここでは当社の攻略本チェックのやり方について、少しお話ししておきましょう。
 まず大前提として、攻略本のチェック作業は「ゲームを実際にプレイして」、紙面の内容が正しいか確認していきます。ただし通常のプレイでは確認できないデータも多く掲載するため、このような部分はゲームメーカーからいただいた開発資料と合わせての確認も行っていきます。

 チェック担当者は、実機や資料を使って確認できたところにマーカーを引いていきます。ここで注意したいのは、攻略本のチェックは、ページを上から一つずつ順番に確認できるわけではないということ。
 なぜかというと、その時点では確認できないけれども、その場で知っておいてほしい情報(あとで戻ってくると発生するサブクエストなど)を考慮して、ページを構成しているためです。
 そのため、原則として確認できたところを“一文ずつ”、場合によっては“一単語ずつ”マーカーを引いていきます。ひとつひとつのマーカーのラインは確認状況を示し、その状況によって色も変えていきます。

 実例をあげてみましょう。
 ジャンルはロールプレイングゲーム、ストーリーの攻略記事で、ある街に到着した読者を想定したページの原稿です。

 チェック担当者がこの街にたどり着いたときのマーカー状況は、以下のようになります。

<色の意味>
オレンジ色:実機(ゲーム)で確認できたもの
黄色:資料で確認できたもの
緑色:現在未チェックの箇所

<解説>
1文目:「次のダンジョンのボスは、「炎属性」が弱点。」
この情報は該当のボスに到達するまでわかりません。ですので、現時点では緑色で引きます。

2文目(前半):この街の武器屋には「炎属性」のついた「フレイムソード」が売られているが、

・街に武器屋があるか?(この街だけなぜか道具屋でした、なんて場合もあるのでそこも注意)
・本当に「街」という表記でよいか?(街なのか、町なのか? 規模で使い分けるのか? ゲーム側で統一していて合わせるべきか?)
・フレイムソードが売っているか?
・フレイムソードは炎属性か?(ゲームによっては「火」属性だったりするのでそこも注意)

上記を実機で確認し、オレンジ色を引きます。

2文目(後半):次のダンジョンに出現するフレイムドッグは33%の確率で「フレイムソード」を落とす。

・次のダンジョンにフレイムドッグは出現するか?(また、何度も戦えるぐらい出現するか)
・フレイムドッグは33%の確率で「フレイムソード」を落とすか?

実際にダンジョンに行くまで不明ですので基本的には緑色です。
「33%の確率で〜」という部分がゲームで明言されない場合、開発資料で確認して黄色にします。

3文目:手持ちのゴールドが心許ないなら、節約するのも手だ。

・「フレイムソード」の価格は節約するような値段か?
・このゲームの通貨単位はそもそも「ゴールド」か?(Gやギルなんて場合もあるので注意)
上記を確認したうえでオレンジ色です。

 このような感じでオレンジ色、黄色、緑色を使い分けながら、チェック状況が一目でわかるようにしていきます。
 緑色が下線なのは、チェックできた際に上からオレンジ色や黄色が塗れるようにするためです。
 場合によってはピンクなど更に色のルールを追加する場合もありますが、あまり増やしすぎるのはよくありません。校正紙は多くの人間が目を通すので、「必要最低限のルールで、すべての箇所の確認状況が一瞬でわかること」、これがもっとも大切です。
 そういう理由から基本的には3種類の色を使い分けています。

それでも間違いは起こる

 いかがでしょうか。
 上記では攻略本のなかでも「ストーリー攻略」の「原稿」という部分に絞って解説しました。
 もちろん攻略本にはほかにも武器や敵のパラメータを扱うデータ編や画面写真、キャラクターや世界観の設定原稿、インタビュー記事、デザインやレイアウトといった本ならではの要素などなど、さまざまな原稿やデータが掲載されています。
これらの対象に合わせて、十年かけて得たノウハウを活かし、日々チェックをしています。
 人間のやる作業ですから、残念なことにそれでもときに間違いは残ります。すべてのミスを潰し、100パーセント完全な攻略本を作ることは至難の業なのです。

 単に校正者の間違いを見つけるスキルをアップするだけでは、ミスはなくなりません。アプリケーションやシステムに任せられる部分はないのか、あるいは人によるチェックはどうすれば効率的に負担なく進められるのか、総合的な取り組みが今後ますます必要とされるでしょう。
 品質管理チームの闘いはまだまだ続きます。

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