当社はこれまでゲームの攻略本を多数制作してきましたが、設定資料集を制作することも少なくありません。どちらもゲームの関連本ではありますが、両者の見た目や中身は大きく異なっています。
その理由はそれぞれの目的や用途が違うからで、攻略本は「ゲームを円滑に進める手助けをする・システムやデータをわかりやすく解説する」、設定資料集は「物語や世界観を掘り下げて解説する・多彩なイラストをできるかぎりキレイに見せる」といったことが主になります。
したがって攻略本の中身はマップやフローチャートを中心とした攻略記事、さらにはアイテムや登場モンスターなどのデータをまとめたもので構成されることが多く、ゲームの種類にもよりますが、たいていは膨大な情報量を掲載するために分厚い本になることが多くなります。
一方の設定資料集はよりゲームの世界観にどっぷりと浸れるよう、イラストが大きく載っていたり、文字がびっしり書いてあったりします。特にグラフィックが人気のゲームでは、より大きくて美麗なイラストを堪能してもらうため、判型(本のサイズ)も大きめにします。ちなみに攻略本の判型はA5判が主流ですが、設定資料集ではB5判やA4判、なかにはそれ以上のものも珍しくありません。
どちらもゲームの関連本とはいえここまで違うのですから、その作り方やアプローチ、さらには制作スタッフの資質までもが当然異なるわけで、今回はそのあたりについて紹介していこうと思います。
攻略本に求められるのは、データやマップを網羅しつつ、それをいかに見やすく、わかりやすく本の形にまとめるかということです。各種データやマップを無理なく配置し、矛盾のないようページを作っていくことは、ある種パズルのようでもあります。
攻略記事についても、「この場所では何が有効か」「それはなぜか」といったことをデータや検証から導き出し解説していくため、単にゲームが上手、文章が上手というだけではなく、むしろ物事を論理的に考えられる資質が必要になってきます。いわゆる理系タイプの人に向いた作業といえるでしょう。
一方で設定資料集は、ご想像どおり文系タイプ向きです。シナリオを紹介したり、キャラクターの心情を綴るうえで、ドラマティックに描く文章力や語彙力が求められます。ゲームファンの気持ちを共有でき、いかにその世界観を誌面で再現できるかというセンスが問われます。
もちろん両方の資質を備えていることがベストですが、さすがにそういう万能スタッフは多くありません。当社スタッフにも「ゲームが得意で論理的」や「文章が上手で表現力がある」といったさまざまなタイプが在席していますので、本によって最適なスタッフをセレクトし、担当してもらっています。
攻略本と設定資料集、どちらも制作は大変ですが、「何」が大変かももちろん違います。比較的わかりやすいのはゲーム情報量による影響でしょう。
攻略本、とりわけロールプレイングゲームやシミュレーションゲームといった定番のジャンルでは、ゲーム自体のボリュームやシステムの複雑さ、データ量の多さが常に制作上の課題となります。なにせ攻略本が必要になるほどのゲームなのですからもともと情報量は多く、作業の負担はその情報量に比例していきます。
とはいえ他のジャンル、たとえばアクションゲームなどでは要になる情報は操作テクニックだったりしますので、ゲームによってその大変さはけっこう違ってくることもあります。
一方の設定資料集では、ゲームのボリュームやシステムの煩雑さはあまり問題となりません。いってしまえば“どのタイトルでも同じように大変”です。こちらも設定資料集を作ることができるほどのゲームですから、基本的には徹底的に練られた物語や世界観、多彩なキャラクター等を備えています。
ただ、攻略本と大きく異なるのは、攻略情報と違って情報を取捨選択できる幅が大きいということです。膨大なゲームの設定情報をすべて収録することは、たいていの場合は不可能です。そこで編集スタッフがいかに読者に喜んでいただけるか、情報の線引きをゲームメーカー様などのご意見も参考にしながら行います。
これはこれで別の苦労があるのですが、攻略本の場合は“絶対に掲載しなければならない情報”が膨大なため取捨選択の融通が利きにくく、辛いところでもあるのです。
どんなゲームでも心に残る物語を作り出すために、緻密な世界観を設定しています。物語自体にも伏線が張られていたり多数の勢力が絡み合ったりと、この部分の複雑さが、攻略本における「ゲームシステムの複雑さ」にとって代わるものといえるかもしれません。
攻略本はあくまで「プレイの手助けをする本」ですので、この部分には触れず、「ゲームをプレイすることで物語を楽しんでもらう」といったスタンスとなることが多くなります。要するにストーリー上のネタバレには極力触れないようにします。
一方の設定資料集は物語や世界観をとことん掘り下げなければいけません。原稿を書き上げるには、当然これらすべてを理解しておく必要があります。何度も物語や開発資料を見返したり、世界の仕組みや登場人物のつながりを整理したり……。その労力は「強敵と幾度も戦って、最適な攻略法を見出す」こととなんら変わりありません。
攻略本にももちろん多数の文章がありますが、画面写真やマップなどもいっしょに掲載されており、誌面上で文字が占める割合は控えめです。マップやデータを、見やすさ・わかりやすさを重視してシステマティックに配置していくことが基本です。
一方の設定資料集では、できるだけイラストを大きく見せるために版型が大きくなっていますが、ときにはそこに文字がびっしり、といったページも少なくありません。ひとつの記事に対する文字量が圧倒的に多く、多彩な表現で情緒的に綴る部分もあるため、元になるゲームがあるとはいえ書き上げるのもひと苦労です。
ゲーム中の膨大なマップやデータ類を掲載するわけではないため、設定資料集のページ数が多くなることはあまりありませんが、文字量だけをみれば以外に攻略本を上回るケースも少なくありません。
また、設定資料集は雰囲気も重要になりますので、誌面に掲載する要素は少ないものの、いかにカッコよく見せるかも苦心するところです。
アイテムデータや敵データなど、攻略本で膨大なページ数を占めるデータ編は、制作における作業量も膨大です。開発資料やゲーム中のデータを確認してまとめ上げ、重要な項目を見やすく理路整然と掲載するのはもちろん、規定の版型やページ数に収めるための工夫も必要になります。
また、攻略本はこういった大量のデータから目的のものを素早く探し出せるよう、検索性についても考慮します。詳細な目次や索引をつけたり、ツメ(ページの端の部分)に見出しやカテゴリ名を記載する、といった具合です。
その点、設定資料集には基本的にデータ編はありませんので、こういった作業は発生しません。誌面のデザインについても、検索性より世界観や雰囲気を重視することがほとんどです。
攻略本では企画ページがなかったり、あったとしても大ボリュームではないことが多いですが、設定資料集においては、一番のウリともいえるページになります。
ゲーム中の要素を独自の観点でまとめる、といったゲーム内の調査で完結する企画ページもありますが、「声優インタビュー」や「描き下ろしイラスト」だったり「人気投票」など、社外や読者の方々に協力をお願いするものも少なくありません。
このような企画は準備・制作ともに時間がかかるため、制作の初期段階から動きはじめます。あらかじめ「このゲームのファンは何を求めているのか」を入念に調査し、「ファンだったら喜んでくれるはず!」という企画を(現実的な範囲で)ひねり出すのです。そうして作り上げたページがファンの期待と合致して、大きな評判となったときは、制作側の苦労も報われるというものです。
攻略本と設定資料集、両者は手に取る人の目的が異なるので、作り方や大変な部分が異なるのは当然です。しかし、どちらにしても制作スタッフが全力で取り組み、「見やすく、わかりやすく、ゲームの魅力をより引き出す」ことに苦心していることに変わりはありません。
隅々まで楽しんでいただけたなら、編集スタッフとしてこんなに嬉しいことはありません。
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