本に使用される「紙」の選び方

2021.06.10

 皆さんが読む本に使われている、紙。
 実は紙には想像以上にいろいろな種類があります。「そんなこと知っているよ」と思う方も多いでしょうが、たとえば本の紙ひとつをとっても非常にさまざまな種類があり、どれでもいいというわけにはいきません。
 普段は何気なく読んでいる雑誌やマンガ、文庫本ですが、特に気になることもなく、それらの本を読むことができているのなら、その本には正しい紙が使われているということになるのです。
 では、正しい紙とはどのようなものでしょうか。
 今回は、本に使われている紙について少しお話ししてみましょう。

 

紙を選ぶときの考え方

 本の紙を選ぶとき、まず大切なのは、その本がどういう種類、どういう用途の本なのかということです。加えて本のサイズやページ数、さらには1色なのかフルカラーなのかといった要素もふまえ、最終的には費用も考慮して紙が決定されます。

 〜前提として決めておきたいこと〜 
 ・本の目的や用途
 ・本のサイズ
 ・ページ数
 ・カラー数

 

 たとえば文庫本には軽くて薄い紙が選ばれます。軽くて薄い紙にすることで持ち運びしやすくなるのはもちろんですが、本のサイズが小さいのに厚い紙を使用すると、本が閉じにくくなったり、ページがめくりにくくなったりしてしまうので、それを避ける意味もあります。
 また、光沢が強いと光をよく反射してしまい、文章を長い時間読むにはあまり適切ではありません。もし、手元に文庫本があれば手に取ってみてください。光沢があまりないだけでなく、ほんのり淡いクリーム色の紙が使われていないでしょうか。ピカピカの紙は反射や光沢が強すぎて読みにくいため、あえて真っ白の紙は使っていないのです。

 これとはまったく逆に、大判の画集や写真集はどうでしょう。こちらは絵や写真をできるだけ美しく見せなければならず、高級感や発色のよさがより重視されます。そこでしっかりとした厚めの光沢ある紙が選ばれることが多くなります。また、こういった本は何度も見ることを想定して、紙の丈夫さも考えなければなりません。
 掲載される絵や写真の内容、コンセプトによっては、光沢を抑えたマットな質感の紙を使うこともありますが、要は読者の気持ちになって考えることです。

 

紙を選択するときのポイント

 ここでは紙を選択するさい、具体的にどういうポイントを見ていけばよいのか、また、それによってどういう違いが出るのかをまとめてみました。

●厚さ

 薄い紙は軽く、めくりやすいのですが、裏に透けやすくなり、耐久性が落ちます。反対に厚い紙は重く、めくりにくくなりますが、裏写りしにくく、耐久性もあります。
 もちろん実際には「薄い紙」と「厚い紙」といった極端な違いではなく、両者の間で細かく指定できます。

●光沢・発色

 光沢や発色のよいものは見た目にきれいで、画集や写真集に向いています。しかし、小説のように長文を長時間読む本には適していません。

●質感

 ツルツルの紙は「光沢・発色」と同様、印刷がきれいで画集や写真集向きです。ザラザラした紙は印刷が少し沈んだ感じになるため、小説など活字中心の本は読みやすくなります。

●色

 色がついた紙を選ぶのには、二つの意味があります。ひとつは、見た目はほとんど白ですが、実はうっすらと色味が入っている場合。真っ白な紙は目が疲れるため、ほんの少し色味をつけて目に優しくしています。
 もうひとつはデザイン上の効果として使う、はっきりした色味の場合。こちらは1色印刷などで、もう少し誌面を華やかにしたいときなどに使うのが一般的です。
 オールカラー印刷で色のついた紙を使うと、どうしても紙の色が影響してしまい、元の写真やイラストの色味とはかなり印象が変わるので注意が必要です。

 

代表的な書籍の紙の種類

 紙を選ぶときに以上のように多くのポイントがあるのですが、実際にはある程度、「このタイプの本にはこの紙」というように定番があります。それをいくつか簡単にご紹介しましょう。

▲たくさんの種類の紙が閉じてある紙の見本帳です。

●上質紙

 特別な加工はされていない白色の紙です。コピー用紙を連想するとよいでしょう。汎用性が高く、さまざまな本の本文用紙に適しています。

●書籍用紙

 こちらも本文用紙に適していますが、淡いクリーム色がかかっており、より柔らかい印象です。目にも優しく、色がついている分、裏写りも多少防ぐことができます。

●コート紙

 表面にツルツルしたコーティング加工がされている紙です。写真やイラストなど、カラー印刷が美しく表現できます。
 表紙に使われることが多いのですが、薄いものは本文用紙としても使われます。ゲームの画集や設定資料集はもちろんですが、攻略本でもゲーム画面写真がきれいに出るので、非常に多く使われています。

 

紙と色の関係

 先にも書きましたが、白く見える紙にもじつは微妙に色がついている場合があります。ほんの少し青みがかっていたり、赤みが強かったり。ただ、この紙の色というのは、注意深く実物を比べてみて、やっとなんとかわかる程度の差異です。
 しかし、用紙が違えば、インクの乗り方なども変わってくるので、まったく同じデータを印刷したとしても、仕上がりが違ってきます。人物の写真が重要となるような書籍の場合、この紙の色で微妙に肌の色が違って見えることがあります。そのため、当社では過去にライブパンフレットの色校正紙を実際に3種類の紙で出して、使用する紙を決めたこともありました。

 

特殊紙

 先ほど挙げた紙以外に、特殊紙を使用するといったこともあります。
 特殊紙というのは文字どおり特殊な加工を施した紙のことで、模様が入っている紙、独特の手触りがある紙、耐水性を持たせた紙などさまざまなものがあります。
 これらは製紙会社や職人が独自に開発したものが多く、ほぼ無数といっていい種類が存在します。ですから特別な演出をしたい本であれば、時間をかければ、だいたいイメージどおりのものを見つけることは可能です。
 ただし、その場合には大きなリスクがつきまといます。
 まず、そのような紙はだいたいが稀少品で、高価なものが多いこと。また、紙自体のストックも少ないことから、すぐに再販に対応できない場合があります。できたとしても初版時に比べ、さらにコストがかかります。最悪なのは、紙が生産中止になってしまい、同じ本を作ることができないといったケースです。
 よく「●部限定販売」といったセールスコピーを見かけます。もちろん購買意欲をあおる意味もありますが、これはむしろ製造コストがかかるので再販はとても無理です、という意味合いが多いのです(全部がそうとはかぎりませんが)。

 

おしまいに

 いかがでしたでしょうか。印刷技術はつねに日進月歩、紙の最新の事情についてもチェックを怠ることはできません。そんな情報をまとめ、紙のさまざまな要素を吟味しつつ、編集者やデザイナーはその書籍に適切な紙を選んでいます。ときには安全第一、ときには見た目重視、そのときどきで最適な紙を提案させていただくことも当社の仕事の一環です。
 皆さんも、お手持ちの本の紙にちょっと注目してみてはいかがでしょうか。

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