挑め! 恐怖の○周年記念本

紙のお仕事
2017.05.30

 ゲーム業界にかぎった話ではありませんが、シリーズ作品やメーカーの節目となる年には、「○周年記念本」というものが発売されることがあります。過去の作品や歴史を手軽に振り返られる、ファンには嬉しい一冊です。
 ですが、その内容から「ちょっと貰い物の素材を並べただけでしょ」「過去の書籍とかWEBとか参考にしてまとめればそんなに難しくはないよね」なんて軽く見られる方もいらっしゃるのではないでしょうか?
 いえいえ、そんなことはございません。作り手側としては普通の攻略本とはひと味もふた味も違う、高く険しい難所が目白押し、恐怖の案件という側面もあるのです。
 今回は制作スタッフが体験したそんな恐怖について紹介しましょう。

【恐怖その1】No.1になるのがきびしい

 作品の歴史をふまえた企画ページは、記念本の華ともいえるページです。この企画のためのネタ出しは非常に楽しい作業ではあるのですが、その楽しい作業の前に「その作品の歴史に誰よりも詳しくなる」という勉強タイムが必要となります。ゲームの内容はもちろんですが、作品の開発背景、当時のインタビュー、発売前の発売から現在までのエピソードやファンの反応などなど、知るべき要素は山ほどあります。
 こういった知識を当時の書籍などで調べて、「我こそがNo.1のファンである」と自負できるまで作品愛を高めていくのです。正直、ディープなファンの方々以上に詳しくなるのは至難の業ですが、そこは我々もプロフェッショナルの意地にかけて日夜、悪戦苦闘しています。

【恐怖その2】素材集めがキツイ

 パッケージや広告の画像、あのときあの場所で公開されていたイラストなど、記念として掲載したい素材は非常にたくさんあります。
 ところが、ほとんどのデータをデジタルで管理できる現在と違い、当時はアナログ素材やアナログ的な管理が中心の時代。メーカーさんに当時の担当者やスタッフが在籍していない、素材がどこに管理されているのかわからないというケースも珍しいことではなく、思うように材料が集まらないこともあります。
 では、そんなときにどうするか。これはもう何とかして現物を手に入れるしかありません。
「社内の有志に声をかけて貸してもらう」
「取り扱いのある店舗で購入する」
「実家の物置を漁ってみる」……など、ありとあらゆる手段で入手を試みます。
 どうしても見つからず、ネットオークションで見かけて購入、などということもありました。現物が入手できればひと安心。あとはスキャナーやデジタルカメラでデータ化しすれば万全です。

【恐怖その3】画面写真の撮影が辛い

 古い作品の画面写真撮影には難所が連続しています。
 まずはソフト&セーブデータの確保が難しいという点。古い作品になるほど、きちんと起動するするソフトの入手が難しくなります。一世を風靡した作品なら流通量も多く、比較的入手しやすいのですが、マイナー作品やアーケード、パソコンの作品ともなると途端に高難度に……。これも上記の素材集めと同じく、「何とかして手に入れる」しかなく、ときには遠征して入手することも。

 また、昔のゲームソフトにはデータを保存するバッテリーが内蔵されているものも多かったのですが、年代物の作品の場合は、そのバッテリーが切れていることがほとんど。保存されていたデータは消えてしまっているので、その場合は最初からやり直して撮影します。時間のかかるロールプレイングゲームなどはこれがなかなか手強い作業なのです。ただ、やり直して新しいデータを作っても、不意の衝撃でデータが消えてしまうなど、悲しい事件が発生してしまうこともあります。懐かしの記録方法である「パスワード」なら、当時の状況を簡単に再現できるのですが、レトロな保存方法のほうが管理しやすいというのも皮肉な話です。

 二番目は、ゲームの腕が必要ということ。
 アクションゲームやシューティングゲームの記事では、見栄えのするクライマックスやスーパープレイの写真を掲載したくなるのが制作者の性というもの。理不尽な難易度の作品であっても、その気持ちは変わりません。
 そういった写真を撮るためには、まずそのタイトルをやり込んで全盛期のテクニックを取り戻すところから始めます。過去の攻略本や攻略サイトがなく、情報のない状態から完全に「ガチ」で攻略することも多々あります。1枚の写真を撮るために、数日かかることもザラです。

 撮影での困難はまだまだ続きます。第三としては、撮影機材への接続方法が限られるということでしょう。
画面写真はゲーム機本体に撮影用機材を接続して行いますが、古い機種は接続方法が限られており、最近の機材では対応できないこともしばしば。コンポジット端子やS端子でも撮影できるよう、古い機材の手入れは欠かせません。ただし、この問題はレトロゲームがバーチャルコンソールやアーカイブスといった形で配信されたり、ゲーム機本体が現代仕様で復刻されるなどで解消しつつあります。
 とはいえ、その場合も上記の「やり直しガチプレイ」が発生するため、相応の時間はかかってしまいますが。

【恐怖その4】検証作業が苦しい

 過去作品のストーリーやキャラクターの紹介は、当時を振り返るにはなくてはならないものです。ネットや書籍での情報や当時の記憶で執筆すると間違いがあるかもしれないため、事前に「一度その作品をプレイしなおす」ことが必要です。
 広く知られる有名なエピソードがあった場合も、作品中の表現を一字一句間違えずに伝えるためにすべてプレイしなおして、その場面を確認します。ラスト直前のイベントなら、そこまでプレイを進めて確認します。執筆後に「この言葉、漢字でいいんだっけ?」と疑問がわけば、そこまでプレイしなおして確認します。校了前のチェック中に「ここ違いますよ」という指摘が入れば、そこまでプレイしなおして確認します。追加でもう1キャラクター紹介してほしいと要望がくれば、そこまでプレイを進めて……と、とにかくちょっとした文章でも徹底した検証作業が必要なのです。
 記念すべき本に、間違いがあってはならないですから。

【恐怖その5】ページが足りなくて悲しい

 作品愛が高まった状態で企画を出していくと、大抵ページ数が足りなくなります。あれもやりたい、これもやりたいとたくさん出した企画の中から、断腸の思いで掲載するものを絞っていくのです。まあ、こればかりは仕方ありませんが。

おしまいに

 以上のように「○周年記念本」の恐怖ポイントを書きつらねてはきましたが、「作品の歴史の一部となる本に携われる」という喜びは、それ以上に大きいものです。ファンの方々や作品に関わってきたスタッフの方々と、その喜びを分かち合えるためなら、そんな恐怖は産みの苦しみ、むしろ快感です。
記念本を見かけた際は、一枚の写真、ちょっとした文章に込められた苦労にも思いを巡らせていただけると幸いです。

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