QuarkXPress(クォーク・エクスプレス)とは?〜DTP業界を支えたかつての盟主〜

紙のお仕事
2020.03.17

QuarkXPress(クォーク・エクスプレス)とは?

 当社の業務のひとつに、ゲーム関連本やパンフレットといった書籍関係の制作がありますが、これらはDTP用のソフトウェアを使って制作されています。
 DTPとは「Desktop publishing(デスクトップパブリッシング)」の略。書籍、新聞など印刷物の編集に際して行うデザインやレイアウトなどの作業をパソコン上で行うことです。
 専用のソフトもいくつかありますが、現在、その中心となっているのがAdobe(アドビ)社の「InDesign(インデザイン)」です。かつて、こちらの記事でもご紹介したので、覚えている方もいらっしゃることでしょう。

『InDesign(インデザイン)とは?〜書籍制作に欠かせないDTPソフト〜』

 これは世界的に使われているスタンダードソフトではあるのですが、実はこのInDesignが主流になる以前、DTPといえばこれ、といわれるほど圧倒的シェアを誇るソフトがありました。
 それが今回ご紹介するQuark社の「QuarkXPress(クォーク・エクスプレス)」です。

QuarkXPressの歩み

 QuarkXPressの日本語版は1987年に登場しましたが、DTPソフトとして先駆けでもあるAldus(アルダス)社開発の「PageMaker(ページメーカー)」を抜き去り、あっという間にDTPにおける盟主の地位を確立しました。

 ちなみにDTP用のパソコンといえば今もMacintosh(以下Mac)が主流ですが、これは当時Macだけが実用的なWYSIWYG(ウィジウィグ)を実現したシステムであったことが大きな理由です。
 WYSIWYGとはディスプレイに表示される画像と出力結果を一致するように表現する技術のこと。要するに画面で見たままがプリントされるようにできるということです。今では当たり前と思われる技術ですが、当時はMacだけがそれを実用化レベルで可能にし、この分野で常に他のシステムを凌駕してきました。
 そのためPageMakerやQuarkXPressは当初Mac用でしか発売されず、そのせいもあって、よりDTPにおけるMacの牙城は盤石なものとなったのです(ちなみに今ではWindowsなど、他のOSでも発売されています)。

写真はVer.4.1Jのディスクです。

 さて、QuarkXPressは操作性のよさや豊富な機能、特にカラー対応の点でライバルに先駆けたことで、デザイナーの心を掴み、大きなシェアを獲得します。
 1990年代はまさにQuarkXPress全盛時代で、当時のデザイン・印刷関係者であれば、MacとQuarkXPressがなければ仕事にならなかったのではないでしょうか。筆者の肌感でいうとそのシェアは9割以上あったと記憶します。

QuarkXPressにも欠点はあった

 しかし、何事においても一強時代というのはよくないのかもしれません。非常に便利なDTPソフトであったQuarkXPressですが、ユーザーからするといろいろと課題も多いソフトで、それがなかなか改善されない不満はありました。

① 日本語対応
 QuarkXPressはアメリカで開発されたDTPソフトですから、基本は英語による組版を前提としています。日本語版QuarkXPressは単にソフトを日本語に翻訳すればよいというわけではなく、日本語による組版に対応しなければならないのです。英語版とはほぼ別のソフトといっても過言ではありませんでした。
 課題は多くありましたが、特に大きなところでは縦組みへの対応、ルビやぶら下がりといった日本語独自の表現形式、何より漢字があることで初期はとにかくフォント(書体)が少なかったことも困ったものでした。
 とはいえこれらはバージョンアップの度に少しずつ改良はされていきますので、ある程度は仕方ないところでしょう。
 むしろユーザーが困ったのは機能以外のところにありました。

②とにかく高価
 まずは価格です。「結局、そこか」というツッコミが出そうですが、これはなかなか切実な問題です。
 今ではライセンス式になって割安感もありますが、1990年代はパッケージ版のみ。バージョンにもよりますがだいたい20万円前後だったかと記憶します。単体のソフトウェアで20万円というのはなかなかの破壊力です。DTPにひととおり対応しようとすると、パソコン本体はもちろん、QuarkXPress、さらにデザイナー必携ソフトであるPhotoshopとIllustratorも必要ですから最低でも100万近くいってしまいます。
 しかもバージョンアップ版ですらほぼ同じような価格設定で、それが2〜3年おきにありますから、大手の印刷会社などはまだしも、数名のデザイナーが在席する小規模のデザイン会社だとかなりの負担だったはずです。

③ハードウェアキーが必要

ドングルもバージョンによって形や規格が変わりました。左はVer.3.3、右はVer.4.1のものです。

 日本語版のQuarkXPressには不正使用を防止するためのハードウェアキーと呼ばれる装置がありました。別名ドングルともいい、QuarkXPressを使用する際は、このドングルをパソコン本体に接続しておかないと起動しないようになっていたのです。
 当時はソフトウェアの著作権に対する意識がまだ低い時代。ひとつのソフトウェアを複数のコンピュータにインストールして使い回していた会社も少なくありませんでした。ドングルはそれを機械的に阻止するためのツールでしたが、導入効果は絶大だったようで、売上が5倍に伸びたとか伸びなかったとか。
 ただ、接続部の作りがあまく、作業中にドングルが抜けるなどトラブルも多く、決して使い勝手がいいものではありませんでした。これはのちに他のソフトウェア同様、ライセンス認証形式に変更されています。

④バージョンの統一が必須
 データの互換性というのはなかなか悩ましい問題ですが、QuarkXPressに関していえば異なるバージョンで扱うことも基本的にはNGでした。
 先ほど少し触れたように、DTPではWYSIWYG(ウィジウィグ)という概念が大前提なので、デスクトップ上の見た目と印刷物は同一でなければいけません。バージョンアップによって機能がマイナーチェンジすることで、この前提が壊れてしまうわけです。
 たとえばバージョン3.1で作成したドキュメント(制作したファイルのこと)をバージョン4.0で開いて保存したりすると、罫線がずれる、文字がボックスからはみ出すなど、さまざまな影響が出てしまうことがありました。印刷して初めてそれが明らかになると刷り直しという事態になりますので、基本的にそのドキュメントに関わる人、デザイナーや編集者、ライター、印刷会社はすべて同一バージョンで作業することが必須でした。
 この同一バージョンで足並みを揃えることが現実的にはけっこう難しい問題でした。なんせQuarkXPressは高価でしたから、新バージョンが出てもバージョンアップしない人も多く、しかも数年おきにバージョンアップがあるため、現場では複数のバージョンが混在することになります。これはQuarkXPressに限っての話ではありませんが、QuarkXPressに関してはとりわけ注意が必要だったのです。
 ちなみに印刷会社ではQuarkXPressが新たにバージョンアップしても、しばらくの間、検証を行い、問題ないと判断しなければ、正式導入されませんでした。そのため取引のある出版やデザイン関係の会社もそれにならうのが慣例だったようです。ただ、それをやりすぎると、早くに対応しない印刷会社は仕事が取れなくなりますので、このバランス取りはなかなか大変だったのではないでしょうか。

InDesignの台頭

 というわけでQuarkXPressは大変便利なソフトであったことは間違いないのですが、課題も多く、最終的にはMac OS Xへの対応の遅れが決定打となって、DTPソフトの盟主の座をInDesignに明け渡すことになります。
 ちなみにDTPソフトの先駆けとなったPageMakerの開発元Aldus社ですが、実はInDesignの発売元Adobe社に買収されています。そのゴタゴタもPageMaker がQuarkXPressに遅れをとった原因のひとつといわれていますが、時を経て、今度はそのAldus社を買収したAdobe社がInDesignでQuarkXPressを抜き去ったというのは、なかなか因縁めいた話といえるでしょう。

おしまいに

 いかがでしたでしょうか。黎明期からDTP業界をリードし、かつては一斉を風靡したQuarkXPress。今ではすっかりInDesignの影に隠れていますが、この先はわかりません。パソコン業界の激しい栄枯盛衰は皆様もご存じのとおり。巨大になったAdobe社に対し、Quark社もまた華麗なる復活劇を狙っていることでしょう。

Quark社のホームページはこちら

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