これまで「攻略本」や「設定資料集」など当社が作るさまざまなゲームの“本”についてご紹介してきましたが、今回は「ファンブック」をとりあげてみましょう。
そもそも「ファンブック」とはどんな本を指すのでしょうか?
一般的にはゲームやアニメ、映画、小説など、その作品の解説や裏話、著者や制作者等へのインタビュー、イラストや表紙・写真、未公開資料など関連情報などを盛り込んだ本ということができます。作品の世界をより深く楽しむための本といってもいいでしょう。
決まった要件や定義はありませんので、「設定資料集」との区分が曖昧なところはあるのですが、しいていえば「設定資料集」は文章メイン、「ファンブック」はビジュアルが多くなります。
下の写真は当社が近年に制作したファンブックの一部です。
それでは、ファンブック作りのポイントをチェックしていきましょう。
当社の制作スタッフがまず気をつけている点としては、どのページから見ても楽しめる作りにすること。
これが攻略本であれば、順序よくシステムにそって説明する必要があるので、基本的には最初のページから順番に読むことを想定した作りになっています。情報量も多いのでなるべく効率的に、たとえば「前のページで説明したことは何度も繰り返さない」という注意が必要です。
ですが、このルールはファンブックでは通用しません。たとえば人気のアイドルがたくさん登場するゲームのファンブックを買ったら、1ページ目からではなく、お気に入りのアイドルのページから見たくなりませんか?
ファンブックではそういった読者の読み方を想定し、どのページから見ても楽しめるようにデザインや内容を工夫しています。簡単なところでは、キャラクターページの右上にタグをつけるなど、誰のページかすぐにわかるような工夫をしています。
前述のとおりイラストなどのビジュアルが多くなるファンブックですが、それを最大限活かすためにこだわっているのが「文章」です。
意外に思われる方もいるかもしれませんが、下の例文を読んでみてください。
A:彼は彼女を抱きしめ「好きだ」と言った。
B:彼は彼女をその腕で包みこみ「好きだ」と告げた。
男女が抱き合うキスシーンのスチルイラストの下につく文章(そのシーンを説明する文章)ですが、どちらがお好みでしょうか?
Aは事実のみを述べたもの。もちろん間違いではないのですが、少し言い回しを変えたBのほうが雰囲気があるように感じませんか?
攻略本の場合はゲームを攻略する実用書なのでAのように事実のみを記した文章が好まれます。しかし、ファンブックの場合はスチルを見たときにそのシーンを思い出し、余韻にひたってもらえるようにBのような表現を使うことが多いんです。
このほかにも時代背景が江戸や戦国の作品では「キス」ではなく「口づけ」を使うなど単語のチョイスに気をつかったり、文末に「……」や「──」を使って含みを持たせたりすることもあります。
余談ですが、編集スタッフ同士が「抱きしめて好きだと言った」のか「好きだと言って抱きしめた」のかを大声で議論したこともありました。文章内の時系列も大事なのです(周囲は冷ややかな視線をおくっていたようですが……)。
ファンブックに必ず存在するのが「企画ページ」とよばれるページです。種類はさまざまですが、基本的にはゲーム本編とは異なる切り口の内容を扱います。たとえばキャラクターを演じる声優さんへのインタビュー、原作者の先生に書き下ろしてもらったショートストーリー、ゲームシリーズの歴史をまとめた年表、キャラクターとの相性診断などなど。
本全体のバランスを考えるとあまりページを割けないことが多いのですが、そのわりには制作に時間がかかります。
ある編集スタッフの話では、数日かけて準備し、渋谷・新宿・吉祥寺を歩き回り、極度の筋肉痛と軽い熱中症になったかも、というぐらいの取材があったらしいのですが、200ページ近いファンブックのたった2ページ分にしかならなかったそうです……。
ほかにも大勢の声優さんの取材の段取りを整えたり、データをまとめるためにゲームを最初からプレイし直したり、イベント会場で来場者の方に突撃取材を敢行したり、苦労のタネは尽きません。
ですが、編集者がどれだけ苦労しようと、企画ページはファンブックからなくなることはありません。なぜならゲーム本編をプレイしただけではわからない「+αの情報」こそ、読者の皆さんには喜んでもらえることが多いからです。
それが企画ページが存在し続ける理由なのです。
ファンブックは文字どおりその作品が大好きなファンのためのものです。ときには編集者よりもファンのみなさんのほうがそのタイトルに詳しいこともあるのですが、それでもみなさんに喜んでもらえるよう精一杯ゲームを理解し、そこに集まるファンの人の気持ちを理解して、充実した内容にしたい、できればそこに新しい楽しみ方も提供したい……ファンブックの編集者はつねにそんなことを意識しながら制作しています。
この記事を読み終わったら、ぜひお手元にあるファンブックを読み直してみてください。さりげなく潜ませた編集者のこだわりが見えるかもしれませんよ。
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